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依存?依存はしてないよ… 物質依存/行為依存

普段なにげなく、学習と強化を行っているといえる私たちですが、ある種の強化が非常に魅力的だった場合、「報酬(ほうしゅう;はたらきに対するお礼やお礼の金品など)系」という脳の回路を刺激して、知らぬ間に「依存」や「中毒」状態になっている場合があります。
報酬系 ある種の報酬を受け取ることへの期待や受け取ったことの喜びなどによって活性化されるといわれる脳内の回路。
依存は依存しているものが、物かどうかによって2つに分けられています。
その2つとは、
- 物質依存
あるもの(薬物、アルコールなど)に極端に依存する。 - 行為依存
何かの過程・行動(例えばショッピングなら買うという行為(こうい;おこない、ふるまい)やギャンブルならお金を賭けること)に依存する。



それをしているととても楽しいことを持つのは、日常に幸福感を運んでくれる良い”気晴らし”として大切なものです。

しかし、のめり込んでコントロールできないところまでいってしまうと、人生の楽しみが人生の困りごとに暗転(あんてん;急に悪い方向へいってしまうこと)してしまいます。問題はこの進展(しんてん;物事がすすみ、広がっていくこと)がご本人の気がつかないうちに、進みやすいところです。
楽しい、嬉しいことも何かを避けたい、逃れたいこともある物質をとる(行動をする)ことでのぞんだ結果が得られると、ついつい繰り返してしまいます(強化)。一旦(いったん:一度)この回路が作られると、続けてしまう…というのが、ヒトのからだのしくみのようです。
どうしてやめられなくなってしまうの?

これは古くからの人類の営みに由来するのでは?と言われています。

古代から飢餓(きが;食べ物がなくお腹がすくこと)に苦しんでいた人類にとって、一度食物が得られた場所や時間はとても重要です。もし忘れてしまったら食物を得られる可能性は低くなり、それが「死」に直結(ちょっけつ;他のものを中におかず直接結びつくこと)するかもしれません。
危険(きけん;あぶないこと)に遭遇(そうぐう;よそうなく、でくわすこと)した場合も一緒です。危険な場所や時間を忘れることは、生存(せいぞん;生きること)の危機(きき;危なく不安なこと)を意味しています。


よい思い(悪い思い)をしたことを忘れないようにすることはとても大事なことなのです。
ですのでこれを強化する回路はとても強く作用するものだと考えられています。
よい思い(悪い思い)を通じて、強化からさらに「報酬系」の活性へ、そして時には依存へと向かっていくのは、ある意味自然なことと言えるかもしれません。
ですが、好きだからといってそればかりを繰り返してしまう、没頭(ぼっとう;一つのことに熱中すること)し続けるわけにもいかないのが世の常(つね;当たりまえ、普通)であり、私たちの生きる社会です。
”楽しみ”を生活の中にうまく取り入れつつ、バランスをとっていくーということが最も重要かもしれません。



やめられないって、頭の中では何がおこってる?
神経伝達物質「ドーパミン」/ドーパミンの働き
(腹側被蓋野・側坐核・前頭前野・扁桃体・海馬)

神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ;神経伝達物質は、興奮や刺激を加えたり、また抑えたりと逆の働きをする場合もあります。ドーパミンの場合は興奮=活性します。)である「ドーパミン」が分泌され、作用していると考えられています。「報酬系」という回路が強化され、それを繰り返したいという強い思いにとらわれます。


欲求と充足のサイクル「報酬系」が活性化します
- この強い思いは、同時にそれを得られない時には、渇望感(かつぼうかん;心からのぞむこと)へと変化します。
- だんだんとアルコールがないとイライラして、飲むと落ち着くというサイクルに入っていきます。
- さらにその渇望感が自分でも抑えられなくなり、時には欲求が満たされるためには何でもする、といった正常な思考では考えられない行動へ駆り立てられることも…。

ドーパミンのはたらき
ドーパミン;やる気のもとになったり、喜んだ時にたくさん放出される神経伝達物質です。
※神経伝達物質;興奮や刺激を加えたり、また抑えたりと逆の働きをする場合もあります。

- 依存物質であるアルコールや薬物を使用すると、脳のかなり奥の中脳の「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」という部分からドーパミンという神経伝達物質※が分泌されます。
- 分泌されたドーパミンは、伸びた神経繊維を伝わって、「側坐核(そくざかく)」へ向かいます。側坐核はドーパミンの入力を受けると強い快感を生み出します。
- 「側坐核」を通ったドーパミンは「前頭前野(ぜんとうぜんや)」へ向かいます。その途中で「扁桃体(へんとうたい)」や「海馬(かいば)」辺りへも放出されていきます。「前頭前野」は理性的な判断等をつかさどる部分といわれますが、報酬系が繰り返し活性化されるうちに理性的な判断を下す前頭前野の働きが弱まり、思考や理性的な判断を抑えるといわれます。
- また情動をつかさどるといわれる「扁桃体(へんとうたい)」、記憶に中心的な役割をする「海馬(かいば)」へも刺激がいくことで、アルコールや薬物による快い感覚が鮮明(せんめい;あざやかなこと)に残り、薬物を探索(たんさく;さが求めること)する行動へ結びつきやすいのではないか、といわれています。

アルコールに話をもどすと飲むことで、「嬉しい・楽しい」刺激が活発に働くと飲む度に開放感や幸福感を感じる回路が「強化」されます。
さらに「耐性」という働きも加わります。

アルコール→気分いいの回路がとても強く強化されてしまうと、神経の変性が加わるともいわれ、理性的な判断を抑えるものです。本人の意志うんぬんではどうにもならないものです。意志が弱くてやめられないなどの見方は、かえってご本人を追い込んでしまい、逆効果になってしまうこともありそうです。